インタビュー

2006/7  「夜叉ケ池」百合、白雪姫 、「天守物語」亀姫

 

~鏡花作品、今月の舞台について~

今月は泉鏡花の作品ばかりの公演ですが、もともと鏡花の作品はお好きですか?
鏡花の作品は好きです。今月かかっている戯曲以外にも、「日本橋」など素晴らしい作品がありますね。

おもしろさはどういうところにあると思いますか?
台詞のきれいさではないでしょうか。文章のきれいさ、日本語の美しさ・・・とても洒落た感じがします。

美しい日本語が特徴の一つですが、台詞を発する上で注意されていることは?
とにかく台詞の中に心理が見えないといけません。型も大事ですが、その前に言葉、意味、心理を解していなければいけないと思います。

今月のお役で、印象に残る台詞は?
全部いい台詞ですから挙げるのは難しいですね。印象に残ると言えば、「夜叉ケ池」の白雪姫の台詞、‘生命(いのち)のために恋は棄てない’・・・すごい台詞ですよね。

今月は昼夜とも大役ですが、役が決定してまず思ったことは?
できるのかしら・・・と(苦笑)。

お稽古が終わり、初日が開いて思ったことは?
大変だな、と思うばかりです。


~昼の部「夜叉ケ池」百合、白雪姫~

 

百合と白雪姫、どちらの役作りが大変ですか?
白雪はふつうの歌舞伎に登場する人物に近いのですが、やはり百合は難しいです。

百合はか弱い村の娘、白雪は気丈なお姫様で、一見して性格が反対の二人を一人で演じる意味はどういうところにあるのでしょうか?
初演時は二役ではなかったし、別に二役で演じなくてもいい芝居なんですよ。
それでも二役になったのは、百合の中にある深い心理のためだと思います。
百合という娘は、例えば、人形を持ってきて何か話したりするところ、ちょっと不気味な感じがするのですが、それは夜叉ケ池の白雪や、過去に生け贄にされた人達の魂の叫びみたいなものが、自分でも気付かないうちに百合に出てきているように思えます。
まるっきり性格は反対だけれど、共通する部分というのは心理のもっと奥深いところで繋がっている、という風に思うんです。百合が純粋無垢であるが故に、百合の身体を借りて、
いろんな魂が叫びを言わせているような・・・。

玉三郎さんが以前に演じていた役なので細やかな指導を受けたと思いますが、
‘目から鱗’だった解釈というのはありましたか?

それはたくさんあって、大概‘目から鱗’です。

早替わりがありますけれど、衣装は工夫されているのですか?
作り帯などの工夫がされていて、一瞬で着替えができるようになっています。
紐を使ったり、帯を締めていたら間に合いません。

人形を抱いて子守唄を歌う場面がありますね。
その場以外に、白雪姫で舞台に出ているときにバックに流れる子守唄もそうです。
あらかじめ録音したものが流れています。


~夜の部「天守物語」亀姫~

 

亀姫は古典歌舞伎に登場する赤姫と、台詞や仕種で違いはあるのでしょうか?
形(なり)は古典歌舞伎の形ですが、その中に鏡花ものの独特の台詞、リアルな台詞まわし等があるので、いろいろと異なる部分があります。

亀姫の性格にはどういった要素があるのでしょう?
可愛らしさの中に妖しさがあり、ちょっと高慢な感じもありますね。
無邪気に、人間の首をお土産に持ってきました、という調子ですから、残虐な幼児性という感じが出せれば、と考えて務めています。
ですが、そういった多面性を出すのに日々苦労しています。
毎日緊張感を持って舞台に立ち、大変勉強になるひと月です。

 


2005/9 九月博多座大歌舞伎(博多座)

 

古典歌舞伎では珍しくお稽古に十分な期間があり、玉三郎さんには細かくご指導頂きました。そのお陰で、不安のない状態で初日を迎えることができました。
初日が開いてからも、「今日はここがこうだった、あそこはこうしたらいいのでは?」とご指摘くださいますし、「今後も、今回勉強した事を忘れずにやっていってほしい。」と言われました。
また、今月は中村獅童さんと初めてご一緒させて頂き、とても良い刺激になっています。


昼の部「三人吉三巴白浪」おとせ


おとせは夜鷹(注1)をしていますが、親思いで素直な、町娘といった感じがあります。
性格的には素直で純粋な人ですね。だから、こういう仕事をさせている父親に対して怒りや恨みはもっていない。娘役ですが、夜鷹という職業をしていることも考えて演じています。

土手からお嬢吉三に突き落とされる場面がありますが、危なくはないですか?
土手は結構高さがあるので、飛び降りるのが怖いです。こんなに高かったかなぁ、と思うのですが。それで花道から出る前にアキレス腱を伸ばす等、ストレッチをしています。

三幕目の墓地の場で、実の兄である和尚に手をかけられることに、おとせはどう思っているのでしょうか?
まず、納得して死んでいくというのが第一条件です。兄の為、親の為と思って運命を受け入れるというのが第一前提で、あの和尚の言っている話の中で納得しなければいけないから、気持ちの切り替えが必要です。

あの場だけで、兄の為に死に、あの世に十三と手に手をとって行けるんだという喜びを抱えて死んでいく、というところを、お客様に納得して頂かないといけません。兄の悪行のせいでどうして死ななければいけないのか・・・これはお芝居としてとても難しいところです。

以前、玉三郎さんが演じていたとき(平成16年2月歌舞伎座)と比べて、だいぶ演出が変わっていますね。
襦袢の変更(以前は犬の斑柄)や、犬手で十三とおとせが和尚の足にからみつくなどの演出が無くなったことで、お客様には気分が暗くなることが無くなったかもしれませんね。以前の方が畜生道に堕ちたということが分かりやすいし、犬の祟りということも分かりやすくなると思うけれども、別にそのことを表現する必要は無いのではないかというのが玉三郎さんの意見です。
(注1)夜鷹(よたか)・・夜、道端で客を引く下層の売春婦


<皆様からの質問>

 

Q、おとせはジェットコースターのような人生ですが、こういう人生をどう思われますか?
哀れですよね。業が深いと申しましょうか・・・。自分がおとせの立場だったら、絶対嫌です。

Q、お稽古中に玉三郎さんからよく指導されたことは?
たくさんあります。例えば裾を直し過ぎるとか、その裾を直す仕方が気になるとか。

Q、笑三郎さんとのカップリングは最近よくありますがいかがですか?
笑三郎さんとは姉妹役や夫婦役など何度も演じていて、お互いのイキが分かっているぶん、やりやすいですね。


夜の部「義経千本桜」序幕 堀川御所の場 静御前
他の場に比べると上演回数が少ない場ですね。

堀川御所は義経が兄頼朝の疑いを受け、都落ちを決心する場面です。

今回は出てこない卿の君が自害したことを、お客様にしっかり伝えなければいけないことが、この場での静御前の役目です。それから女武者であるということで、あんまりお姫様のようにできないこと。そこが玉三郎さんに指導して頂いた大切なところです。

また、昼の部と変わって時代物なので、きちっと演じなければいけません。

卿の君が出ない演出に変わっているのですね。
カットして変更になっているので、静御前に関する部分も変更になっています。

花道を、長刀を携えて行く静御前は勇ましく見えます。
白拍子はお姫様じゃないですからね。一見お姫様のように見えますが、静御前の振袖は普通のお姫様よりも袖が短いのが決まりです。柄は虫喰いで、扇面や流水は使わないのが基本です。

 

<皆様からの質問>
Q、玉三郎さんと同じ役を演じるにあたってプレッシャーや、特に気を遣われた事はありましたか?
プレッシャーはもちろんあります。次にあんまり繋がらないようじゃいけませんから。気を遣うということは無く、指導して頂いているので、良い意味で緊張感は常にあります。

Q、静御前の衣裳は赤が多いですが、今回の桃色は?
役者の好みで変えたりしますが、今月は夜の部に限らず昼の部も、衣裳は玉三郎さんが選んでくださったものです。

 


 


その他、いろいろな質問がきています。

Q、七月に歌舞伎鑑賞教室で解説をしてから、演じることに対して何か変化はありますか?

普段やっていることを歌舞伎鑑賞教室にそのまま取り入れただけなので、演じることに変わったことはありません。

Q、一ヶ月間舞台を勤められるのは、相当な体力・精神力がいると思いますが、健康管理や心のケア等、どのようにしていらっしゃいますか?
健康の面では暑くても冷房を入れないようにするとか、ストレスは溜めないようにするとか・・・。発散するようにしています。舞台が終わった後、気の合う人とご飯を食べに行くことでも、ストレスは発散できますからね。

Q、今月の吉野山を観て、春猿さんが鑑賞教室の時にさわりで静御前を踊られたことを思い出しました。今回は竹本のみの道行ですが、春猿さんが踊られるとしたら、どういう型・音楽でしたいと思いますか?
竹本と清元はそれぞれの良さがありますし、曲も全然違います。やり方も忠信の衣裳も変わってきますが、それぞれにいいと思うので、どちらでも踊ってみたいですね。

 


 


今年の締めくくりは喜劇・狸御殿です。どんな舞台になるのでしょうか。

 

10月からお稽古に入りますが、派手な舞台ですよ、きっと。こういう喜劇に出演させて頂くことはあまり無いことですし、歌舞伎をご覧にならない方にも観やすいお芝居だと思いますので、ぜひお誘い合わせの上、たくさんの方にご覧いただければと思います。

 


2004/7 「西太后」 /西太后妹 醇親王夫人 (中日劇場)

 

台詞などに歌舞伎味が感じられました。春猿さんは新派を勉強されたりしているので、『西太后』のような歌舞伎ではないお芝居でも、歌舞伎とは演じ分けがしやすいのではないでしょうか?
新派というよりもスーパー歌舞伎をやっているから、という感じがあります。スーパー歌舞伎をやっているから、歌舞伎味を出しながらも自然な台詞まわしとか、なんとなくスーパー歌舞伎的な要素をもっているところがありました。

一、二、三幕と登場ごとに年齢が高くなっていきますが、どのあたりで変化をつけていますか?
二幕から三幕ははっきり違うけれども、一幕より二幕の方が少しおばさんぽく・・・声質ではなく、語尾を変えたりしています。

老いた姿には驚きますが、ご自身で抵抗はありますか?
いいえ。とてもやりがいがありますね。

衣装や舞台装置が素晴らしく、質問も多くきていますが、あの爪の装飾のつけ心地はいかがですか?
じゃま・・です。あれは当時みんなつけていたらしいですね、高貴な人が。小指と薬指をわざと使えないようにして、残りの三本で物事をする、というのがセレブで。

装飾をつける指は決まっていて、親指、人差し指、中指しか使えなかったんですね。
その三本しか使えなく、いろんなことができないから、女中さんとかがいっぱいいるんだそうです。

顔に当たったり、ひっかかったりしそうですが・・・。
そうそう、それはあります。


<皆様からの質問>

 

Q、一番お好みの衣装はどの場面のものですか?
一幕の緑の衣装がきれいじゃないかと思います。

Q、どんな靴を履いていたのですか?
布の靴なんですが、底の方が小さくなっていてちょっと高い靴です。すごく歩きにくい。
高貴な人は高い靴で、女中さんとかはべたっとした靴。歩きにくくして、宮中から逃げられないようにしてあるらしいです。

Q、西太后と醇親王夫人は姉妹でありながらまったく異なる生き方をしていましたが、共感できるのはどちらのどんなところですか?
まあ、どちらもそれぞれの生き方だから・・・。でもお互いこういう風に生きるって決めてしまったら、そう生きていくしかないだろうし。

人間て、仕事を変えたり離婚したりっていうこととは違って、途中で生き方を変えるのは難しいと思います。

妹から見ると、とても意地悪なお姉さんに思えますが。
でも姉妹だし、お姉さんが出世したお陰で自分も宮中に上がってきたわけですしね。

醇親王夫人っていう人は本当はすごく怖い人で有名だったそうです。お芝居だからお姉さんとの対比を見せるために、こういう風にしてありますけど。

Q、三幕目の老けの化粧は、どのくらい時間がかかるものですか?
一度全部落としておばあさんの化粧をしてますが、5分もかからないくらいかな。

 


 


七月大歌舞伎(歌舞伎座)
夜の部「桜姫東文章」葛飾のお十
お十はどんな女性として演じてらっしゃいますか?
いろいろ解釈があって難しいですが、武家の奥さんで忠義者ですね。

『桜姫東文章』に出演することと、玉三郎丈にご指導頂く事で、今月は女形役者としては大変勉強になるのでは?
ります。細かい事とか、これでいいと思っていた事が実は良くなかったんだとか、そういう事がいくつもあるので。有り難いというか貴重というか、本当に勉強になります。

春猿さんの桜姫を観たいというファンも多いと思いますが。
(苦笑)・・・ありがとうございます。

 

<皆様からの質問>

 

Q、お十は良い役どころですが、着物の色合いや柄などはどなたが決めるのですか?
玉三郎さんです。

Q、お乳をあげる場面はどのような心持ちですか?どなたかから、アドバイスは受けましたか?
心持ちと言われても特には・・・。アドバイスは受けないです。

お乳をあげながら後ろを向いている時間は長いですね

でも芝居のじゃまになるから後ろを向いていないといけないんです。反応したくなってしまうでしょう。自分は(桜姫が)入ってきた時点で「探しているお姫様がここにいた」って気付いているから。

Q、かごの乗り心地はいかがですか?
結構揺れるものです。町かごには以前、琴浦(『夏祭浪花鑑』)でも乗ってますけれど。

Q、ご自分の出番や支度の時間以外に、玉三郎丈の桜姫をご覧になったりしますか?
よく観ます。

Q、今後も今月のように、澤瀉屋一門以外の役者さんと共演するようなことはあるのでしょうか?
これは興行する会社側が決めることですので私たちには分かりません。でも、そうあってほしいと思っています。

 


 


七月大歌舞伎(歌舞伎座)

昼の部「修禅寺物語」妹娘 楓

 

新歌舞伎の難しいところ、おもしろいところはどんなところですか?
新歌舞伎というのはスーパー歌舞伎等とは違って、歌舞伎味がたっぷりないといけません。歌舞伎でなければいけないし、新歌舞伎という確立した演技方法でなければいけないので難しいです。まあ、とてもとても僕なんかには手の出る代物ではないと思います。

 

前回、楓を演じたのは平成七年、九年前でした。そのときの舞台のことで覚えていることはありますか?
いろいろあります、一つあげろと言われれば困るけれど・・・。

 

国立の研修所時代にもお稽古されていたのですね。
ええ。そのときは何も考えないでやっていたけれど、今思えば大変だったなあと思います。

 

七月大歌舞伎製作発表で、「同じ役を前よりも良く」と意気込みを語っておられましたが、演じてみていかがでしたか?
だめでしたね。一つには喉にポリープができたせいもあるんですが、ポリープなんて生まれて初めてできてしまったことで、どうしても声に気をとられて、芝居がおろそかになりますね。これは良くないことですが。

自分の声で出ないところがあると、僕はここをこういう風に感情表現したいんだと思っても、声が出ないばっかりに、一本調子になるから感情が上手く伝わらない。自分で一生懸命感情を表に出そうと思っても、出てこないということがあります。

 

夜叉王がのみをもう持たないと言うときに、長い台詞がありますね。感情をわーっと出さなくてはいけないところが。
あの場はしんどいですね。全然出ないですからね、声が。一日や二日、声が出ないことはありましたが、ずっと出ないというのは精神的にもくたびれてくるし。

これで少し、何かメリットがないといけないから、痩せてくれればと思うくらいです。

 

でも夜の部のお十の声はいいですね。
お十は出すところが違うから。どこの音が出なくなるかというのは、ポリープのできている場所に拠るのです。だから、裏に抜くところはいけるんだけど、一番使いたい表声の上の方が出ない。表から裏に、裏から表にもどるところがだめなんです。一番楓で使うところなんですよ。

 

声がでていれば・・・と思いますが、心残りですね。
声が出たからって芝居が良くなるわけじゃないですよ。ないですけれど、芝居がまずいんだから声ぐらい出ていた方がいいんじゃないかと、そういう意味の心残りですね。

 

<皆様からの質問>

 

Q、手ぬぐいを折りたたんで帯に挟む一連のしぐさが好きなのですが、あのたたみ方は決まっているのですか?
決まっています。

 

Q、舞台で道具を片付けたり、座布団を出したり、やることがたくさんあって忙しそうですが、そういった動きは台本に書かれているのですか?
書かれているものもあるし、書かれていないものもあります。また、演じる人によって違うこともあります。

 

 

 


2004/3 2月巡業公演/ 「俄獅子」 芸者お春

 

2月の巡業「俄獅子」では芸者役でしたが、ご自身は踊っていて如何でしたか?
芸者は好きですよ。好きだしね、ズボラな言い方をすると、娘とかよりも楽に踊れるでしょ。あんまり腰や膝を折ったりしないので。そういう意味でも芸者の役どころと言うのは、お芝居でも踊りでも好きです。

扇獅子(注;舞踊の小道具。お扇子二枚で獅子頭を挟んだもの。長い布、錣がついている。)の扱いで、お扇子と違って難しいことはありますか?
そうでもないのですが、案外重いのです。作り付けになっていて、手をつっこむと持つところがあります。こうしているだけなのですが、重いのでくたびれます。それと錣(しころ)といって、長い布がついているでしょう。その扱いが大変なのです。

女方は首に掛けることはあまりないのですが、立役さんは首に掛けなくてはいけないので、一々それを外したり掛けたり、また、髷(まげ)に引っ掛かってしまったり・・・ そういう意味では錣の扱いは大変ですね。

今回はいつにもましてハードな移動でしたね。
すごいスケジュールでした。今回、九州は1カ所だけでしたが、以前は鹿児島や大分の日田、熊本にも行きました。巡業の行われる会館は一回限りで、次回からはないという所もあるし、新しく呼んでくれる所もありますが、出来ることなら未だ行ったことのない地に行きたいと思います。

歌舞伎が観られる劇場というのは、固定劇場でしたら、歌舞伎座をはじめとして全国に8劇場しかありません。観ようと思ったら其処まで行かなければならないでしょう。北海道に劇場がないのは不思議だと思いました。札幌みたいな大都市に・・・。

北海道の人がどこに歌舞伎を観に行くのか?一番近いのが東京、というわけですが、これは大変ですよ。北海道も経済の問題等あるのでしょうが、劇場の一つぐらいはあってもいいのではないかと思いました。

九州の場合でも観ることが出来るのは博多でしょう。でも、例えば宮崎~博多間は5、6時間かかるのです。それは大変やで~、観に行くの。

九州新幹線に乗ったとしても、鹿児島までは遠いですね。
九州に行ったからいいと言うものではありません。本来は、やはり本当に観たくても観られない人、テレビでしか見たことのない人たちのために、如何に色々な処に行くかが、巡業では大事だと思います。観てもらって楽しかったら、時間を掛けてでも足を運んでくれるでしょう。

とにかく、色々なものを生で観てもらわないことには分からないし、自分たちも関心のなかったものでも、実際、生で観たらすごく良かった、ということは常にあるので、特に北海道には是非、劇場が欲しいですね。

地方だから客が入らないと言う事ではなくて、それこそ待ってました!とすごく楽しみにしているお客様が一杯いらっしゃるわけですよね。
そう、しかも一日一回公演でしょう。皆さんが待っていて下されば嬉しいし、また猿之助ファン、我々二十一世紀歌舞伎組のファンの方々は各地の公演にずーっとついて回って下さる方も居て、本当に有り難いなあと思っています。

大雪で北海道行きが、かなり大変だったと聞きましたが?
シャレにもならなかったです。八戸から函館まではよかった。

ところが・・・僕はJRに文句を言いたいのですが、八戸から函館というのはJR東北本線?、函館からはJR函館本線と管轄が異なるためか函館には電車がきていないとか、止まっているとか、電車の中でアナウンスしてくれれば良いのに、何事もないかのように車中で連絡もないまま函館に着きました。

函館に着いて、指定席を買っていた札幌行に乗ろうと思ったら、電車がまだ来ていないから、別の電車の自由席に乗って下さいと言われて・・・早く札幌に着きたいので、皆より2時間も早い電車に乗ったのに、一駅毎に電車が止まっていると言う状態で動かなくなってしまった。一番先頭の電車は前の晩に出た夜行列車だと言うのですよ。

仕方がないので錦岡駅で下車してタクシーで行こう、と決め、扉を開けて貰おうと車掌さんを探したのですが、探せども探せども電車の中の何処にも車掌さんがいません。あんまり皆が文句を言うので隠れてしまったのではと話していました。それが夜6時ぐらいでした。

ようやく苫小牧に着いてタクシーに乗りました。雪道ですし、札幌までは2時間はみて貰わなければと聞いて乗ったのですが、バッチリ3時間かかって、着いたのは9時半。ところが2時間後に出発した組は、函館で延々待ってからバスで札幌まで来たのだけれど、我々の30分後に着いた。2時間、前に出ようが、後に出ようが、電車は動かなかったので・・・。

何だか一日損をした感じですね。冬の時期にそういう所に行くのは・・・
駄目ですね。だから北海道は夏に行けば良い。冬は九州、沖縄など。2月の旅は、北海道は無し。

風邪が流行っていましたが、大丈夫でしたか?
ひどい風邪をひきました。僕は熱を計らないのです。もし計って高熱だともう動くのも厭になってしまうので。

旅先で風邪をひくと辛いのは、公演が終わったらすぐ移動でしょ。お風呂から上がって汗ひくまで待てないので、さっと荷物片付けて出発、駅に着いたら電車を待っている間が寒い。旅公演では風邪をひいたら治らないことになっています。インフルエンザではなかったのは不幸中の幸でした。

インフルエンザといえば、近頃の鳥インフルエンザの影響で、鶏肉は食べませんか?
ぱくぱく食べます。食してかかったという人は過去にいないとのことですので。




3月 スーパー歌舞伎

「新・三国志III」 伊代

 

大変な巡業後の、現在公演中の「新・三国志III」についてですが、再演ということで伊代役で何か変更点は?
最後のカーテンコールとか二幕の踊りとかは、相手役の猿弥さんが「こうしたい」というのがあるので、それに合わせていますから、微妙に変わっていますね。

再演から、静華が自害したと聞いたところで伊代は倒れていますね。
そう、あれはあのようにしてみました。一寸気絶っぽく。というのは、すぐ前の場面で仲達親子に滅ぼされたと聞いたところでびっくりしているので、あそこでびっくりすると二度びっくりになってしまうのです。だからショックの大きい方を気絶にしてみました。

稽古の時、「倒れるからザブ(注;礼具役の喜猿さん)支えてね」と言っていたのに、いなかったりして・・・(笑)よしんばドンと尻餅ついてしまっても、毛足の長い絨毯なので平気ですけれどね。

二幕で「謳凌さまー」と上手から出てくるところ、あれはどの辺りから発声されているのですか?
黒い幕があるところの3m位後から、叫びながら出るのです。

僕はいまだにすごく不思議な気がしています。「謳凌さまー」と言って出ていかなくても、パッと出ていって、「あ、謳凌さま」の方が自然かな、と思うのですが、あれが場面転換の音キッカケなのですよ。

疑問に思う方も多いと思うのですが、舞台に出てくる船はどうやって動くのですか?
船はね、中に人が入って運転しているのです。ちゃんと外から指示出している人がいるのですよ。「はい、そこでスピードこれ位にして、はい、レバー曲げて」みたいに。中の人はそれをイヤホンで聞いて、一寸開いているところから見ながら運転しているのです。

乗っていて怖いですよ、結構。でもね、ガタンってなることはないの。前の車輪は一輪だから、相当外にまわっても大丈夫。船なのに車輪があるのですよ。一輪のため、前(伊代が乗っている位置)は結構安定が悪いから、ユラユラ揺れて丁度船みたいになるのです。あれ一台でベンツが買えるとか。

伊代は何歳ぐらいのイメージで演じていらっしゃいますか?
どうでしょう・・・15、6ってことはないですね。21、2位。ブリブリの設定にしてもいいのですが、あんまりブリブリでおばさん臭いこと言っても合わないと思って、少し設定を上げています。笑三郎さん(演じる静華)と対等にものを喋っているから、その辺りのことも考えて。「天に召されし静華様にもさぞ御満足にございましょう」なんて、言っているわけだし。

史実の伊代は14、5歳で即位したと言われていますが、卑弥呼の実の娘ではないのですね。
そう、女秘書みたいなものでしょうか。結局、当時の王様に即位するしないと言うのは、巫女(みこ)的な役割が出来るかどうかということで、政治力があるか、無いかと言う話ではないですよね。あのウーッ ウーッという祈祷を卑弥呼が教えたのではなかろうかという話です。

日本は遅れていますね。むこうは鉄の刀振り回したりしているのに、こちらは今から米でも作ろうかいな・・・というような世界で。ここから先に人が住んでいるのかどうか、という事すらわからない時代でしょう?


 

(注)以下に掲載している平成17年に予定しておりました『第3回市川春猿の会』は、
   諸般の事情により、やむなく延期となりましたのでご了承ください。(平成16年11月)

 

第三回《市川春猿の会》について

 

来年予定されている、≪第三回 市川春猿の会≫についてお聞かせ下さい。
5日間開けてくれる劇場を探すところから始めています。第一回は舞踊リサイタルでしたが、やっぱりお芝居となると掛かる金額も全然違うので、次回は色々反省点を考慮して、上手く段取りを計って行きたいと考えています。

皆様からの寄付金を募らせて頂くと同時に、後援会の皆々様にスポンサー様をご紹介頂きたいというのが第一のお願いです。もう一つには、公演回数を前回より増やすので、沢山のお客様にご来場頂く、ということも大事な目標です。そのためにも今から宣伝活動を始めなければと思っているのですが、考えると色々あって、頭がイターイという感じです。

幸にして4、5、6月が再演の月なので、その間に、ゆっくり考えられるかなあと思っているので、来月東京に戻ったら、足繁く動き始めようと思っています。

次回の≪春猿の会≫では、歌舞伎の古典ものを観たいという話も聞くのですが?
なぜ僕が新派を演るかと言うと、古典歌舞伎は本公演とか、どこでも演れる可能性があるけれども、新派に出演することはまず無いし、まして新派の主役を演るということは、僕の中では自分でお金を出して演るしかないと思っているので、中々出来ないものを、こういう機会に演じてみたいというのが本意です。

公演については、決まり次第、皆さんに最新情報をお知らせいたしますので、楽しみにお待ち下さい。

「WEB春猿」ができて4ヵ月になります。いつもご覧になっている皆さんに何かメッセージをお願いします。
ホームページを見て、後援会に入りたいとおっしゃっている方もいらっしゃるので、素晴らしいなあと思っています。ぜひぜひ、「こういうホームページがあるんだよ」という事をお友達なり、お知り合いに宣伝して頂いて、沢山の方々に見て頂きたいと思います。
写真も色々更新したり、数多く載せられるようにして行きたいと思っています。あと、皆さんがご覧になっている、歌舞伎以外のホームページでも宣伝をして頂ければ、とても嬉しいです。
これからも応援よろしくお願いいたします。

 

 

 


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